分断されるアメリカ(サミュエル・ハンチントン著 集英社)

・白人のエリートはアメリカの主だった組織をすべて支配しているが、エリート以外の数百万人の白人は、エリートとまったく異なった考えを持っている。彼らには自信も安心感もなく、人種間の競争では、エリートによって優遇され、政府の施策の援助を受けた他のグループに負け始めていると考えている。そうした損害は現実にこうむっていなくてもかまわない。ただ彼らの心のなかに存在し、新興勢力にたいする恐れと憎しみをかきたててくれればいいのだ。

 

・「愛国的な大衆」と「無国籍化したエリート」のあいだの違いは、価値観や哲学に関するその他の差異にもみられる。ナショナル・アイデンティティに影響する内政および外交政策に関する問題で、主要な機関の指導者と大衆のあいだに広がる差異は、階級や宗派、人種、宗教、民族による区分を超えた重大な文化的フォルトラインを形成している。政府の中でも民間においても、アメリカの支配者層はさまざなな形で、アメリカの大衆からいよいよかけ離れている。

 アメリカは政治的には民主主義で在り続ける。なぜなら、重要な公職が自由で公正な選挙を通じて選ばれるからだ。だが、いろいろな意味でそれは選挙民を代表しない民主主義と化した。何しろ、重要な問題では、とりわけナショナル・アイデンティティに関する問題では、指導者たちがアメリカの国民の見解とは異なる法律を通過させ、施行するからだ。それにともなって、アメリカの国民は政治と政府からますます疎外されていった。

 総じて、アメリカのエリートはアメリカの大衆にくらべてナショナリスティックな傾向が弱いだけではなく、リベラル色も強い。