保守主義とは何か(宇野重規著 中央公論新社)

・かつて、第二次大戦で英国を主導した首相のウィンストン・チャーチルは、次のような言葉を口にしたという。「20歳のときにリベラルでないなら、情熱が足りない。40歳のときに保守主義者でないなら、思慮が足りない。(If you are not a liberal at twenty, you have no heart. If you are not a conservative at forty, you have no brain.)

 

・丸山(眞男)の見るところ、日本では、知的にも政治的にも保守主義が明確に定着することはなかった。すなわち、現行の政治体制を自覚的に保守しようとする勢力はついに現れなかったのである。代わりに目立ったのは、漠然と進歩を信じるか、さもなければ、ズルズルと現状維持を好む態度であった。結果として、明確に政治革新を目指す勢力はつねに少数で、目立ったのは思想なき保守勢力であった。

 

・吉田(茂)の負の遺産もあり、戦後日本の保守主義は、本質的に「何を保守するのか」、曖昧さを残すものとなった。1955年、左右社会党の統一に危機感を覚えた保守勢力が大同団結することで生まれた自民党は、自由主義的なハト派から、より国家主義的なタカ派まで、党内にかなり幅広い政治的立場が共存するものとなった。「反共」と「経済成長」以外、とくに共通の価値観をもたない巨大な保守政党が長く統治の役割を担ったことは、日本の保守主義にとってはたして幸せなことであったのか、疑問が残る。