現代ロシアの軍事戦略(小泉悠著、ちくま新書)

 クリミアやドンバスにおいて軍事力が作り出した「状況」は、ウクライナを紛争国家化することであった。ウクライナを征圧して完全に「勢力圏」に組み込むのではなく、同国が西側の一部になってしまわないように(具体的に言えばNATOEUに加盟できないように)しておけばそれで良かったのである。非軍事的手段や民兵による蜂起ではこの目標が達成できないと見ると、ロシアは正規軍やPMCを送り込んだが、その任務は戦争を終わらせないことであり、実際に2021年現在に至るもウクライナは紛争国家で在り続けている。「勝たないように戦う」ことがウクライナにおけるロシア軍の任務だといえよう。