読書メモ:嘘の政治史(五百旗頭 薫)

引用

・必死な嘘、横着な嘘

 

・ 政府はしばしば人々に献身を求める。その時には、何らかの号令をかけるのが普通である。その号令に嘘を見出すと、我々はすぐ文句を言う。だがもし号令に嘘が含まれていなければ、どうだろうか。政府が人々を信頼し真実を打ち明けているか、傍若無人にも酷使の対象としてのみとらているか、どちらかであろう。なかなかスリリングな二者択一ではないか。

 幸いなるかな、政治家は国民に嘘をつくらしい。我々の生きる世界は、恐らく信頼と傍若無人という両極端の間にある。政府は人々の反応を気遣う。人々の献身は、少なくとも部分的には報われる、つまり個々の利益になる、と思わせようとする。この時、政府の号令に嘘が入り込む余地が生じるのだ。

 ならばこの嘘の質によって、我々の世界の質も推し量ることができる。嘘が精緻であれば、それだけ政府は人々の反応を気遣っている。一目置いているともいえよう。嘘が雑であれば、そうでもないということである。