メモ:「ベンチャーキャピタル全史」(著:トム・ニコラス)

投資基準

 投資企業の選択については、デイビスデイビス&ロック、トミーデイビス)には明確な基準があった。「正しい人材を応援することです。基本的に、製品を作るのはひとです。製品が人を作るのではありません。ほんのわずかな人々が、とてつもない成長企業を構築する経営能力と、周囲をやる気にさせる能力を持っているのです」。さらに、「正しい人材」を見極めるための6つの基準を示している。

 

1.誠実さ

 基本的なことであるにもかかわらず、往々にして無視されるか当然のこととみなされる基準です。誠実さには、金銭に対して潔癖なだけでなく、責任を取り、間違いを認め、事実に向き合う気概が含まれます。

2.モチベーション

 非常に重要な基準です。皆さんは、どこにも負けないくらいに大きく、素晴らしい会社を、できればがむしゃらに急ぐこともなく、馬鹿馬鹿しいほどのリスクを取らなくても成り立つ会社をつくりたいのでしょうか。それとも一歩一歩着実に歩むような、立派な快適な会社を持ちたいのでしょうか。何年努力しても売上は増えないのに、誰もできないような開発を成功させて名誉を得たいのでしょうか。それとも社有車、高い給料、給料以外のさまざまな特権を得たいのでしょうか、、、

3.マーケット志向

 私が応援したいのは、徹底的にマーケット志向の人です。そういう人は、人々がすぐに、しかも大量に、何が何でも買いたいと思うようなものしか興味を示しません。そこが出発点です。どんなに素晴らしい製品でも、どんなに素晴らしい解決策だったとしても、それに感銘を受ける人がほんの一握りならあっさり諦めるのです、、、

4.スキルと経験

 創業したばかりの会社を支援する際には、自ら選んだ分野で新しい物を生み出せる技術力を持っている人に絞るべきです。その人は、相当の規模で実際に仕事を回した経験を持ち合わせていなければなりません。しかも、計画している業務は、かつて自分が手掛けたものであることをが必要です。投資家には、マネジャーが学習する費用を負担している余裕はないのです。

5.会計能力

 真のマネジャーは、会計が自分の会社で果たせる役割を深く理解しています。コストに関する正確な情報を持っていないと、製品の値付けを適切に行えず、確信をもって契約を取りに行くこともできず、どの部分にコスト削減努力をすればよいかも分かりません。本当に目先の利くマネジャーは、そのことを知っています、、、

6.リーダーシップ

 極めて高いレベルのリーダーシップを発揮する能力はどうしても必要です。この資質を分かりやすく説明するのは非常に難しい。あまりに多くの書籍や記事が説明しようとしてきましたが、多くは成功しておりません。ただほんの少しの時間、近くで接しさえすれば、かなり正しい感覚をつかむことができるでしょう。

 

ダウンサイドとアップサイド

 「どの会社への投資でも、どんなに損をしても、下落率が100%、つまり倒産した企業への投資分を超えることはない。しかし、もしその会社が成功すれば1000%, いや2000%の利益を得られるかもしれないのだ」。アーリーステージのベンチャーキャピタル投資とは、まさにロングテール型の利益配分を期待して高リスクの資本を展開することに他ならない。

 

多様性問題の起源

 1980年代のベンチャーキャピタル業界に関して見逃してはいけないことは、人種と性の多様性が欠けていたことである。

 

クリーンテックとVC

 リミテッド・パートナーシップそのものが組織構造の選択として間違っているということではなく、スタートアップ企業の事業の性質を見極めてからファイナンス先を決めればよいのである。たとえば、クリーンエネルギー・セクターからベンチャーキャピタルが得るリターンはさほど魅力的でないことが多い。というのも、この分野への投資には最初からかなりの資金が必要で、しかも事業を成長させるには、投資の長期的継続が必要だからだ。したがって、ベンチャーキャピタルのモデルは、この手の事業にはおよそ適さないといってよいだろう。2007年、ジョン・ドーアは「グリーン・テクノロジーはインターネットよりもずっと規模が大きく、21世紀で最大の経済的なチャンスになっても不思議ではない」と言い切ったが、グリーン・テクノロジーへの投資では高いリターンを実現できなかった。経営史学界の伝説として名高いアルフレッド・D・チャンドラーも「戦略は組織構造と一致すべきだ」と常々強調している。ベンチャーキャピタルによる近年のクリーン・テクノロジーへの投資は、戦略と組織構造がかみ合わない典型的なケースのように思える。